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多くの企業との取引関係も整理されたが、取引を切られた企業はすぐに別の取引先を見つけることができ、しかも、プレイト石油の株価は二五%も上昇したという。
この買収例は、後に米財務長官になるローレンス・サマーズが、まだ少壮経済学者として注目されていた八七年に、アンドレイ・シュレイファーと一緒に書いた『敵対的買収における乗っ取り屋たちの行動が経済を活性化させるというウソたしかに、ピケンズのプレイト石油の件だけを見れば、乗っ取り屋も経済活性化に役立つように見えるだろう。
雇用は減らず、取引も減少することなく、株価だけは上がったのである。
サマーズが挙げているもう二つの例では、まったくそうではない。
まず、フランク・ロレンゾという乗っ取り屋が試みたディレクション航空の買収では、株価が二五%上昇した点では同じでも、大量の解雇の後、会社に残った社員の給料は三○%もカットされ、解雇された人たちの一○%は、以前の給料の五○%以上を稼げる次の仕事を見つけることができなかった。
しかも、ロレンゾは航空路線を整理するなどの経営効率化はまったく行なっていない。
また、カール・アイカーンという乗っ取り屋は、ピケンズと並び称される有名な乗っ取り屋だが、彼が試みたUSZ社の買収では、やはり株価だけは二五%上昇したが、経営陣はクビになり、給料の高い社員は軒並み整理され、小都市では地元経済を支えていた工場がいくつも閉鎖されているのである。
小泉前首相がブッシュ大統領と合意した「日本企業叩き売り」日本においてアメリカ並みの、あるいはアメリカ以上に自由に、日本企業を売買する制度サマーズとシュレイファーは「これら三つの例はすべて、目的とされた株価吊り上げには成功して、株主に利益をもたらした。これら三つの買収の社会的な結果は、まったく違っていた」と述べている。
そもそも『敵対的買収における背任』という論文のタイトルからして、乗っ取り屋を賞賛しているものではないのに、『企業価値報告書』は上手くらい挙げて国民を欺いている。
さらにいえば、ピケンズはフィリップ石油の買収でも、たんなる「グリーン・メーラー利益をあげた。
ユノカル石油の買収のさいには、あまりに強引な手口を使ったので裁判に負け、アメリカ司法界では強引な手法を違法とする「ユノカル基準」ができたほどである。
国家の機関が国民の税金で作成したこの『企業価値報告書」は、国民に乗っ取り屋も悪くないという間違ったイメージを与えることになる。
まさにそれこそ、政府機関による日本国民に対する「背任」であろう。
に改変させるというのは、八○年代に日本企業によってロックフェラーセンターや有名映画会社を買収されたアメリカの「逆襲」というべきものだった。
アメリカは日本にアメリカと同様の企業買収制度を要求していたが、八九年から九○年にかけての日米構造協議の『最終報告書』で、すでに日本の国会でTOBについての改正法が通過したことを、大きな成果として記している。
九三年には宮漂喜一首相とクリントン大統領との「日米間の新たなパートナーシップの枠組み」について合意がなされたが、翌年、アメリカが日本に渡した第一回目の『年次改革要望書』には、次のような文章が見える。
「日本における低レベルの外国企業による企業買収・合併活動への参入を向上させるために、日本国政府はこの種の取引にかんする肯定的な雰囲気を促進せねばならない」日本政府は、外国企業が日本企業をもっと買収するようにするために、M&Aは良いことだというイメージを日本国民に植え付けろというわけである。
その後、九七年の純粋持ち株会社の解禁や九八年のビッグバン、さらには九九年の商法改正によって、日本における企業合併・買収の制度は「アメリカ化」が進められていった。
仕上げは二○○一年、小泉前首相とブッシュ大統領との合意に基づく「成長のための日米パートナーシップ」だった。
二○○三年の『日米投資イニシアティブ報告書』には、法改正によって「三角合併」が可能になったことが、日本側の「成果」として報告されている。
前述したように、小泉前首相は、ホリエモンのニッポン放送買収騒動のさい、フジテレビ側にホワイトナイト(救い主)が登場すると、「あの世界は、わからないねえ」などとコメントしたものだが、自分がM&Aの加速を推進しておきながら、無責任かつ「カマトト」の度がすぎるというべきだろう。
M&Aの制度を無理やりアメリカ型にした「企業価値研究会」ニッポン放送買収騒動を受けて、法務省と経済産業省は敵対的買収に対する防衛策の「指針」を発表したが、あまりに買収側が有利であることに、関係者からは驚きの声があがった。
すでに「成長のための日米パートナーシップ」に則って、日本のM&Aの仕組みをアメリカ型にすることが決まっていたことからすれば、当然のことだった。
経済産業省の企業価値研究会が発表した『企業価値報告書」を読んでもわかる。
この報告書の方向性のひとつは、すでに述べたようにM&Aや各種ファンドに関して「肯定的な雰囲気を促進する」ことであり、もうひとつが日本のM&A制度をアメリカ型にすることだったとしか思えない。
そもそも、「買収」に関する世界各国の制度を見てみると、アメリカの制度の特異さが際立っていることがわかる。
たとえば、敵対的買収について原則として是認するのはアメリカだけであり、ヨ−ロッパ諸国は原則として認めず、ドイツやフランスにおいては外国企業の国内企業買収に対しては、政府が介入することも辞さない。
英国の場合には買収はすべて「現金」で行なわなくてはならず、また、いったん買収のために株式買付を始めたら最後まで遂行しなくてはならないのだ(″ページ図B)。
この英国方式(シティ・コード)を採用すれば、三角合併などは不可能であり、グリーン・メーラーによる利鞘稼ぎもできなくなる。
つまり、ホリエモン事件もM上ファンド事件も起こるはずがなかった。
しかも、東南アジア諸国などでは、アメリカ型を忌避してイギリス方式を採用している国が多く、グローバル・スタンダードでいえば、敵対的買収は原則として認めず、やる場合には現金で買付を行ない、一○○%買い上げなくてはならない制度こそ国際的なのである。
水ぶくれした株価によるM&Aで失敗した典型例は、AOL(アメリカ・オンライン)によるタイム・ワーナー社の買収だが、このケースでは期待された合併効果がまったくなく、三角合併は恐くないという説は、まったくの間違い二○○六年の秋ごろになってようやく、日本経済団体連合会は「三角合併」のルールを、もっとハードルの高いものにすべきだなどと言い出したが、もはや遅きに失したというべきだろう。
その間、M&Aの専門家や一部のマスコミは、「三角合併は友好的合併に用いられるのだから恐くない」という説を流布していた。
これも奇妙な主張というしかない。
たしかに合併は、取締役会で半分以上の賛成を得た上で、株主総会において特別決議を行これからも株価が急騰する状況にある国の企業は、三角合併を日本に仕掛けてくることになるが、その買収の成否を決めるのは買収側企業の経営力や将来性ではなく、ただ単にバブルで急伸した水ぶくれの株価だけということになる。
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